布施琳太郎 / Rintaro Fuse

あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて

2021年

スプレーペイントされたバルーン

あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて

今回、「Reborn-Art Festival 2021」に展示するのは、第二次世界大戦中に荻浜に作られた秘匿壕を使用した作品《あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて》だ。秘匿壕とは、言い換えれば人工の洞窟のようなもので、今回使用するのは人間魚雷を隠すために作られたものらしい。ここにあった人間魚雷は使用されなかったそうだが、他の場所の人間魚雷は日本軍によって使用されている。

しかし一見して、そうした人間の、もっとも人間らしい残酷さから、かけ離れた印象を秘匿壕は持っているように僕には思えた。つまり、それは一見して自然らしい崇高さを感じさせるのである。ここになにかを付け加えることは、戦争の歴史に対して、人間と自然のすでに成立した関係に対しても、過剰だと思えた。また、この壕は手作りなので、東日本大震災の余震が来るたびに天井部が剥がれ落ちる。数センチ四方の石ころだとしても、それが三、四メートル近い高さから落ちてくるとなれば頭蓋骨が破壊されることは免れないので、鑑賞者を壕内に入れることも禁じられている。では、僕には何ができるのだろうか。

できるだけ、何もしなかったかのように、しかしそこに内包された複数の緊張を知覚できるような操作を行わなければならない[…中略…]空虚こそが、荻浜の人工洞窟にたいして僕が為すべき介入であるように思えた。しかし2021年にいたっては、何もないということ、それ自体がなによりも強烈なオブジェである。

そこで僕は、制作することによってはじめて失われる作品を作ろうと思った。


日記「2021年7月27日」より抜粋


ある日のことである。僕の耳もとで彼女は言った。「もしも私のからだが大きくて、ただひたすらに白い球だったらよかったのに」。汗ばんだ耳に押し付けたスマートフォン越しにその言葉を聞いて、僕はイヴ・クラインの仕事の意味を、洞窟壁画におけるネガティブハンドが何だったのかを、完全に理解したと思った。不可能な抱擁……。


日記「2021年7月8日」より抜粋

展示歴

Reborn-Art Festival 2021-22
個展『新しい死体』PARCO Museum Tokyo

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