布施琳太郎 / Rintaro Fuse

ソラリスの酒場

2018年

Bar333 / The Cave

ソラリスの酒場

ステートメント

JR関内駅の目の前には、空襲の被害を逃れて100年近い月日を奇跡的に生き延びたイセビルという建物がある。地下には戦前に描かれた朽ちかけの壁画が残っており2017年からバーが運営されている。展覧会『ソラリスの酒場』は実際の酒場と過去の壁画、そして若手作家の作品が絡み合う展覧会である。

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 遺伝をつかさどる原形質は、『記憶する』プラズマなんだ。
 そこで海はわれわれの脳からそれを引き出して記録した。
 その後のことは……いや、きみも知っての通りさ。

 ——スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳、2015年、ハヤカワ文庫)

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時間それ自体が朽ちていく。多層化した空間は絡み合って一枚になり、網膜は全身に拡がる。恋愛における時間と空間の共有は新しいステージに突入し、帰るべき場所は分散し、ボクは始発を待ちながら渋谷のガストでポテトをつまむ。世界の構造が変化した。

かつて歴史と神話は不可分なものだった。しかし近代以降、歴史は真実の連続性を根拠とするものに、そして神話は現実と直接の関係を持たないものに変更された。世界を「真実/フェイク」に分節した人類は、フェイクではなく真実に特別の価値を置いたのである。そして情報技術の革新を試みる中で、フェイクを排除することを試みた。しかし真実とは、フェイクによって照らされることではじめて存在可能なヴァーチャルな概念であることに、人類は気がつかずにいた。そしてすべてが真実に̶̶あるいはフェイクに̶̶なったのである。

こうして「真実/フェイク」をはじめとした全ての二項対立は互いに侵食し合って分散し、記号や言語の体系は錯乱状態に移行した。石ころから貨幣まで、すべての物質はフラットにメルカリで販売され、名付けによる情報化と商品化を免れることはできない。現在という瞬間――それだけは真実であるような時間――を根拠に配置されていたツイートはシャッフルされ、動詞における時制は消滅した。都知事は公の場で自らのことを人工知能であると口にし、放射能や電磁波という目に見えない物質がボクたちの生活を規定している。人類によるこの星の地質の破壊さえ真実としてのリアリティを獲得することはできない。世界は快楽化し、記憶や記録は過去に関するものではなくなった。

本展は「不気味なアナグラム」によって展開される。それは『惑星ソラリス』における「客」という概念、そして今回の会場の置かれた「横浜」における近世日本と諸外国のアナグラム的な再構成をモチーフに実行される。つまりサイエンスフィクションにおける絶対性と、この国に拡がるナショナリズムという二重の文脈を複雑に絡み合わせながら、1つの物語が紡がれていくのだ。目の前にあるものをよりよく見るために、目の前にないもののことを想像するために、この酒場に足を運んでみてはいかがでしょうか?

展覧会概要

会場:Bar333 / The Cave
会期:2018年1月8日-1月21日
時間:16:00-23:00
企画:布施琳太郎
参加作家:藍嘉比沙耶、伊阪柊、奥田栄希、鈴木雄大、都築拓磨、布施琳太郎

イベント
1月8日 トーク「横浜と芸術の歩み」布施琳太郎+伊藤大貴/オープニングパーティ+ライブ 増田義基
1月13日 ライブパフォーマンス 荒井優作
1月17日 トーク「不完全な作家性」布施琳太郎+南島興+木原天彦
1月21日 トーク「分散するナラティブ——ポスト・トゥルース時代の物語」布施琳太郎+仲山ひふみ

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