この度、古来からのプラネタリウムにおける経験をVR(ヴァーチャル・リアリティ)として解釈した全天球上映「観察報告:空の証言」を実施いたします。
本上映会は、「かたり」と「映像」によって、2025年2月に葛西臨海公園を舞台に架空の水族園構想を提示した市外劇=ツアー型展覧会『パビリオン・ゼロ:空の水族園』の内容をリプレイする試みです。
葛西臨海公園でのツアーで、ヘッドマウントディスプレイを装着した参加者たちは、現実と虚構のあいだを飛び回りながら、公園の陸、海、空のなかから想像上の水族園を読み出して、観測しました。その観測報告、観察の報告会がプラネタリウムで開催される『空の証言』です。プラネタリウムの球面スクリーンは、一時的に、想像上の水族園となります。
プラネタリウムには、天体の運動や、宇宙の起源について話しながら機械を操作する語り部がいます。今回、その役目は布施琳太郎がつとめる予定です。布施は、自らの「かたり」について次のように説明しています。
かつて哲学者の坂部恵が大和言葉の「かたり」について論じた。坂部によれば、「かたり」は、「はなし」の素朴で生活的かつ水平的な関係とは異なり、明確な筋(プロット)を持っている。それは「かたり」が「語り」であると同時に「騙り」でもあるからこその特徴である。例えば教師という「かたり」の主体は意図的に演じられた仮象であり、教壇の上の主体の二重性において、授業という「かたり」は可能になるのだ。つまり「かたり」における「演じられた主体」(教師として語る/教師を騙る私)という二重性こそが、「はなし」と「かたり」を区別する。
布施が説明する「かたり」の起源は哲学的ですが、それは『パビリオン・ゼロ:空の水族園』における現実と虚構の行き来と対応しています。実在しない水族園を集団的に観測すること。そしてその内容を事後的に報告すること。架空の水族園構想についての報告は、どうしても「かたり」(騙り/語り)なのです。
さらに布施は自らの試みの背景にある文脈について次のように述べています。
僕にとっての「かたり」のサンプルはただひとつである。それは1980年代の日本で盛んだったテーブルトークRPGのリプレイ文化だ。コンピュータを用いずに、アナログな紙や鉛筆、サイコロ、ゲームブックによってプレイされるテーブルトークRPGにおいて、それまでの現実から離陸してファンタジーのなかへと旅立つためにプレイヤーたちが行うのは「かたり」だった。「かたり」によって部室に集まった学生たちは勇者や魔法使いとなるのだ。
しかしテーブルトークRPGの面白さはゲームマスターの話芸によって左右される。そこでパソコンとゲームの専門誌「コンプティーク」(角川書店)で1986年9月号より展開されたリプレイ企画(座談会記事とファンタジー小説のあいだのような文体)が人気を博した。テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイとして連載された『ロードス島戦記』は書籍化されてミリオンセラーを記録。その後のライトノベルの起源とも呼べるものとなったのだ。
日本における物語文化における手法に触発されながら、布施は、架空の水族園構想について「かたり」ながら、そのツアーをリプレイします。これはたんなる記録上映ではありません。テクノロジーと肉体の関係をつくりなおし、今日における芸術の場所を明らかにするためのパフォーマンスが『空の証言』なのです。
それはキュレーターのニコラ・ブリオーが1990年代から2000年代にかけて「関係性の美学」や「ポスト・プロダクション」にまとめた観客参加型の作品群、あるいは映画や音楽の編集操作をインスタレーションへと昇華させる手法とは異なります。複数の存在たちが互いに互いを「かたり」、ありのままの自分としては出会わないで、しかしまっすぐに思考して物語をつむいでいく未来のための形式を開発する試みです。
市外劇=ツアー型展覧会と同じく、ここでもやはり「想像力を再び私たちのものにする試み」がなされます。そんな「かたり」の場に、どうぞお集まりください。
日時:2025年3月15日(土)14:30〜/16:00〜/17:30〜
会場:コスモプラネタリウム渋谷(渋谷区文化総合センター大和田12F)
定員:各回100名(事前予約制)
参加費:無料
申込期間:2025年1月15日(水)〜上限に達し次第終了
予約:CCBT特設サイト
かたり部、企画、脚本、映像編集:布施琳太郎
音楽:小松千倫
制作進行:坂口千秋、加藤夏帆(TASKO)、島田芽生(CCBT)
主催:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
※ 映像素材は以下のイベントをベースとしています。
『パビリオン・ゼロ:空の水族園』
日程:2025年2月8日(土)、2月9日(日)
時間:10:00–12:00、13:30–15:30(両日程)
会場:葛西臨海公園 鳥類園ウォッチングセンター集合
鑑賞無料、各回予約抽選制(20名ずつ)
ツアーガイド、企画、演出、脚本:布施琳太郎
XR設計:Jackson KAKI
XRコンテンツ制作:米澤柊、布施琳太郎、小松千倫
展示:米澤柊、板垣竜馬、涌井智仁、布施琳太郎
アートディレクション:八木幣二郎、酒井英作
テクニカルディレクション:村川龍司(arsaffix)、イトウユウヤ(arsaffix)
パフォーマンス:青柳菜摘、雨宮庸介(形式提供)、倉知朋之介、黒澤こはる、米村優人
記録撮影:竹久直樹
制作進行:坂口千秋、加藤夏帆(TASKO)、島田芽生(CCBT)
主催:シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
©︎ Rintaro Fuse / Project Pavilion ZERO