シー
水沢なお

スカートの ポケットの中に隠したたまご わたしより ずっときれいな色のきみ ぬかるんだ頬が机に触れると 学級文庫のスピンを食むきみの瞳が見える 靄の中の 規則正しく並ぶ 芽キャベツ 湿気た葉脈 羊水 透明な ガソリン 舐めてみたい そこで産まれてみたい 火のついたダンボールを 投げ入れて まつ毛が燃えるところを 手をつなぎながら見ていたい 授業中 だれも居ない廊下 林を切り開いてできた グラウンド 走路の白いライン より ぐうと 内側に食いむように  引かれた石灰 ピンク色 踏まないように 走っても きみの背中に 追いつけない 「あのひとってなんでいつもマスクしてんの」 「さあ」  クラスメイトのさす場所にきみがいた 「恥ずかしいからじゃない」 「口から産まれたんだって」 「へえ」 「授業参観のとき、すぐわかるよ。瓜二つ、 服装が違うだけでおんなじ個体みたい」 「あそこにいるの母親だったりしてね」 「だれにもわからない」 「下にあるものが上にあって、横じゃなくて さあ、縦になってるんじゃないの」  クラスメイトがわたしのくちびるを  割れ目に沿ってつうとなぞった  ぱりぱりに乾いた膜の奥に潜んだ  濡れた部分  きみが出てきそうで  押し黙る 「だってあのひとの声、まだ聴いたことない もの」 自分の髪を二回なでつける いってらっしゃい  大きな世界地図 資料室へかえしてあげる 女子だけ集められた部屋の窓 自画像の前に置かれた零号機 萌葱色のカーテンのうちがわで きみのことだけ考える その瞬間も どこか遠くの 知らない国の 小鍋のなかで 水が煮えているのだ 水色の ミニカー 消防車 つまみあげて 給水栓をこじあける わたしの唾液を詰んだ車体が 隣のカーテンを越える きみがいた それははじめからわかっていた 山を越える 糊付けされたきみの身体うえを 駆けてゆく 子宮のうえを通り過ぎると ブラウスの 胸元が赤く滲んだ 硬くってなめらかな線が 両胸にぴざりと浮かび上がった ポケットの中でたまごが ピィピィわめいている  先生  いもむしが交尾していました  花柄のガーゼハンカチのうえで  先生  ちがいます  ゲームなんかじゃありません  わたしのたまごです  決めるのはわたしです  もし わたしが将来だれかとかぞくに  なるときにも きっと紹介します  こどもがほしいって  そんなに惨めなことですか  先生がたまごをうばった  給食当番が配膳した魚型のたれびん  中に残っていた精液がちゅるとかかった 「次持ってきたら没収するから」 「はい」 「春に托卵する種族のだろうな」 「ちがいます」 「気がつけて、よかったな」 「はい」  わたしは、ハンカチでそれをぬぐった  ようやく画面が見えてくる  ふりかけごはんいやそうに食べるよね  いつからそんな子になったのかな  わたしがいけなかった  つぶつぶの安いゼリーで喜んでたときは  すごいかわいかったよ 愛おしかった  悲しいのは嫌い きもちわるい  いつも期待しているのはどうしてなの  わたしの真似しないでよ  甲虫の糞のような 硬く窄んだ穴を  シャープペンの先端でぎゅうと押し込む  これは何度でも復活するたまご  練習だけど 永遠に 透明を通ってかえるんだって 高速道路 知ってた? 分厚いテレビに映し出される しずかちゃん のはだか 運転席の近くにある 一番遠くの 画面を見つめる 破壊光線 出せないか試し ている 遠足のバスはわたしたちだけを置いて 走りさってゆく きみは海を見ている クリアファイル工場 見学楽しかったね どんどんできていったね いろんなもの 挟めるね うれしいね きみを砂浜に放り投げて 胸骨に沿って並んだくるみボタンを ひとつひとつ外してゆく まっしろで 平たい胸の真ん中に割れ目があった わたしは人差し指と中指で 甘酸っぱい焼き菓子のように膨らんだ その傍らを撫でた うっすらと生えそろった産毛 饐えたオパールの匂いがする 結晶化した 海に向かって叫ぶように  米粒より黄色い卵が いもむしが 蝶々が 次々にきみの割れ目から 這い出してゆく わたしはそれを見ていた ずっと見ていた