『余白/Marginalia』メインビジュアル
デザイン:八木幣二郎
このたびKENJI KUBOTA ART OFFICEが取り組んできた3年間のプロジェクト「10年後のための芸術表現」では、最終年の集大成としてアーティスト布施琳太郎氏をキュレーターに迎え「余白/Marginaria」展を開催する運びとなりました。
1994年生まれの布施琳太郎は、独自の視点による同時代性の可視化を試みるインスタレーションや展覧会企画を意欲的に行っています。2016年に発表した企画展「iphone mural (iPhoneの洞窟壁画)」では、スマートフォン以降に出現した新たな「自然環境」を、かつての洞窟壁画に描かれた古代の人々の自然への向き合い方と対照させようというユニークなコンセプトが話題となりました。布施はテクノロジーの発達によって人間の意識や行動が変化する状況や、人間の持つ普遍的な表現欲求、あるいは承認欲求をこれまでの人類の営みを参照しながら探求しています。その根源的かつきわめて現代的な問題意識は、今後10年の芸術表現の可能性をおおいに示唆するものとなるでしょう。
(KENJI KUBOTA ART OFFICE)
ステートメント
本展の英題として与えられた「Marginaria」とは「テクストの余白に書き込まれた注釈や挿絵、落書き、装飾など」を広く意味する単語で、中世ヨーロッパで写本を行う際にあしらわれたものを端緒としています。しかしこの言葉は、書店で購入した本に線を引き、要約や思い付きなどを書き込むことをも意味します。テクストの物理的な余白において、人間は時間を超えて他者と対話し、そのシニフィエ(記号内容)を身勝手に変質させるのです。こうした過去と現在の対話は、時間の恒常的な流れを攪拌し、孤独の時間を創造します。しかしスマートフォンの上で、少しでも速く書き=話し、読む=聞くことを強いられる時代環境において、そうした時間はどこにあるのでしょうか?
本展は、こうした問いを出発点として企画されました。ここでは展覧会において展示される作品と、展覧会に付されるテキストの関係が再考されます。会場には個別のコンテキスト=物語を把持する複数の作品が集められると同時に、布施の手によるフィクション=物語が寄せられます。展示作品とフィクションは、互いを自らの物語の「余白」(marginalia)として参照し合いながら、ひとつの体験を立ち上げるでしょう。
また本展における作品の選択は、身体の個別性を明らかにすることを意図して行なわれました。これらの作品において様々な境界——人間とアンドロイド、オートメーションと偶然性、演算と行為など——は、アーティストの制作行為によって様々に架橋されます。彼/彼女の制作は、人間でありながら機械であり、男でありながら女であるサイボーグを想像する瞬間のように、私たちの身体を脱/再文脈化することで、その個別性を浮き彫りにします。
しかしそれとは関係なく、それぞれの事物に注釈を加え別のコンテキストを構成するフィクション。それは言語が思考を、そして世界の形を確定するという「サビア=ウォーフの仮説」を元にした物語です。そこでは不安について語られます。不安は恐怖とは異なり対象や原因、その主体すらもよく分からないものです。つまりそれは感情というよりひとつの状況であり、現在のなかで、存在しない現在に身を置くことを意味します。では複数の異なる言語(例えば『あなたの人生の物語』や『1984』で異星人が使用する言語)において不安はどのようなものとなるのでしょうか?
世界の余白=未来における思考として不安を捉え直し、展示作品とテクストの関係を実験すること。それが『余白/Marginalia』です。
(布施琳太郎)
開催概要
名称:余白/Marginalia
会期:2020/2/22(土) - 3/21(土) *日・月・火・祝日は休廊
時間:13:00–19:00
会場:SNOW Contemporary
入場料:無料
キュレーション:布施琳太郎
参加作家:小松千倫、髙橋銑、中村葵、村山悟郎
デザイン:八木幣二郎
主催:KENJI KUBOTA ART OFFICE
協力:東京藝術大学大学院映像研究科
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京
布施琳太郎 Rintaro Fuse (本展キュレーター)
1994年生まれ。2017年 東京藝術大学美術学部絵画科(油画専攻)卒業。2019年 同大学大学院映像研究科(メディア映像専攻)修了。作品制作と同時にキュレーションやテキストの執筆などの活動を行っている。
小松千倫 Kazumichi Komatsu
1992年、高知県生まれ。音楽家、美術家、DJ。flau、Angoisse、Manila Institute、BUS editions等のレーベルより作品をリリース。ティム・ヘッカー、ジュリア・ホルター、アルカらの公演をサポート。また、くるり、泉まくら、Qrion等のリミックスワーク、中村弘二のプロデュースワーク等を手がける。一方で視覚言語の伝染とコードに注目し、音響作品やインスタレーションを制作する。
髙橋銑 Sen Takahashi
1992年東京都生まれ。2018年東京藝術大学彫刻科卒業。近現代彫刻の保存・修復を学んだ経験を基に、人間存在の営為をテーマに彫刻、映像、インスタレーションなど様々なメディアで制作を展開している。
中村葵 Aoi Nakamura
1994年、福島県生まれ。2016年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。2018年 武蔵野美術大学造形研究科美術専攻油絵コース修了。主なグループ展に『A Vague Anxiety』(2019, グラスゴー大学)、『群馬青年ビエンナーレ』(2019, 群馬県立近代美術館)など。
村山悟郎 Goro Murayama
1983年、東京生まれ。アーティスト。博士(美術)。東京芸術大学油画専攻/武蔵野美術大学油絵学科にて非常勤講師。東洋大学国際哲学研究センター客員研究員。自己組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。
村山悟郎「撹乱する機械と再生のドローイング」2020
水彩紙にアクリリック, 各34×49cm
中村葵「Reloaded Body」2019, 映像
アンドロイド開発、共同研究/石黒浩、小川浩平(アンドロイド制作)、池上高志、土井樹(アンドロイドプログラミング)